【2024年度小学校新教科書を読む】が完成しました。

 

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                                            小学校教科書検討資料集について

 

○今回の小学校教科書は、QRコードなどの2次元コードがすべての教科書に載り、いわば「カリキュラム・オーバーロード(過積載)」で、教師も子どもも大変です。また一昨年以来の、政府の介入による「強制連行」などの用語否定などの影響があらわれ、植民地支配の記述の後退が起きています。

資料集は、140頁を越える「大作」です。作成の目的は

      教員の皆様の選定や展示会(6月)での市民の皆さんへの参考資料として、また学習会でも活用していただく為、

      さらに、よい教科書作成へ向けた、発行者・編集者へのメッセージでもあります。

 

こうした取り組みで、子どもにとってより良い教科書選定や教職員、市民等の意見を反映した教科書作成へつなげていきましょう。

○団体加盟の各地のネットには、データで提供します。メールでご連絡ください。

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2023年3月小学校教科書検定新聞報道を資料に掲載しました。


【談話】

                          小学校教科書などの検定結果について

                                                                                                                                                                       2023年4月10日

                                                                                                                子どもと教科書全国ネット21 事務局長 鈴 木 敏 夫 

                                                                                                    〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-8-9 第二望月ビル2F

                                                                                              電話:03-3265-7606/E-mail:ukyokasho21@a.email.ne.jp

  文部科学省は現行学習指導要領(以下、指導要領)に基づく2回目の小学校教科書と主に高学年で使われる高校教科書の検定結果を3月28日に公表した。

  小学校全11教科で149点の申請があり、いずれも検定合格した。高校教科書は、共通科目で47点の申請があり、開隆堂出版の英語コミュニケーションⅢの教科書1点は、検定意見に相当する箇所が100ページ当たり100カ所以上あることから不合格となり、数学Ⅲで1点取り下げがあり、結果45点が合格した。

現在判明している範囲で、全般的な問題点について指摘しておく。なお、各新聞の引用は、日付を示さない限り、2023年3月29日のものである。

 

1.子どもの学びや教師の教育活動に応えたものになっているか

 (1)すべての教科書にQRコードがついた

① 小学校教科書検定問題について全国紙1面のほとんどがこの問題である。

「教科書 デジタル対応進む すべてにQRコード…」(「朝日」)、「小学校全教科書にQR動画・音声 大幅拡充」       (毎日」)、「教科書デジタル融合加速 小学校 全点にQRコード」(「読売」)

 QRコードとは、Quick Response[素早い反応]の略で、四角いモザイク状の2次元コードのことである。これにスマホなどをかざすと所定のウエブサイトにつながり、教科書会社が保有管理するデジタルコンテンツ(動画、音声、文章の読み方、資料、ゲームなど)を見ることができる。さらに教科書会社のサイトを通じて教科書会社所定のウエブサイトにつながる。

② 背景には、コロナ禍の中で、「GIGAスクール構想」により2021年度末までに、全国の小中学生にデジタル端末がほぼ配り終えたことがある。また、文科省が、2024年度に小学校5年生から中学校3年生までの英語から紙の教科書と併用してデジタル教科書を導入することを決め、さらに算数・数学へのデジタル教科書導入を視野においていることがある。そのためほとんどの教科書会社が、販売戦略として、これまでの巻末だけでなく、東京書籍算数の大半のページにつくなどQRコードを大幅に増やしたのである。

③ QRコードについて、教科書検定基準は、「教科書の内容と密接な関連があり、出版社の責任で管理できるウエブサイトをリンク先にすることを求めている。ただ、参照するデジタル教材の内容自体については、教科書の補助となる『教材』の位置づけで検定対象になっていない」(「毎日」)。したがってどんな内容かについては、検討が必要である。現在でも教育教出の社会では、QRコードから防衛省・自衛隊「KIDS SITE」につながり、子ども向け「はじめての防衛白書」にアクセスできるようになっている。

④ 実際に、現場ではどうなのか。朝日新聞は、「大幅増 先生『もてあます』」の見出しで、45分の授業で、教科書内容を教えると、ほとんど時間がない、これ以上QRコードを増やされても「もてあましてしまう」との声を伝えている。また、「辞書を使う調べ学習など、子供が考える機会がさらに減ってしまう」(「読売」)ことや、「QRコードは、調べてほしい部分をあらかじめ示すもので『親切すぎる』という側面もある」(「毎日」)。子どもの自主的な学びが少なくなる心配も指摘されている。

⑤ 「GIGAスクール構想」や経産省主導の「教育DX」により、QRコードだけでなく、学校教育で一層のICT化が進められようとしている。しかし、子どもたちの教育に役立つものか、教員が授業を行う上で必要なものかなどを見極めることが求められる。QRコードとそのコンテンツなどの作成は、教科書会社の負担である。教科書会社の独自性を発揮しやすい反面、発行部数の少ないところは、撤退に追い込まれかねない。

関連して、「デジタル人材育成に向けて、論理的な思考力を育む狙いがある」(「日経」)プログラム教育の記述が、合格した教科書149点のうち6教科51点にあり、前回26点のほぼ倍増である。算数(31点)、理科(12)のほか、図画工作(1)、家庭(2)、英語(1)さらに国語でも今回2点ある。ICT関連が増えている。

⑥ 今回も全体として教科書発行会社の減少が起き、寡占化も進んでいる。(文末別表参照)。採択数が多く、資本力のある会社が教科書デジタル化などで一層採択数を増やすとますます寡占化が進み、多様な教科書が少なくなる恐れがある。

 

(2)増え続ける子どもと教師への負担

  前回検定時の事務局長談話(2019年4月)で、教科書のページが10%増え、1998年年以降最多であり、英語の教科化だけでなく、アクティブ・ラーニング(AL)の多用などをふくめて教員と子どもの負担が増大していることに懸念を表明した。

  今回も全体で、頁数が2%増加している。タブレットなどを家に持ち帰るとしたら、ますます「重いランドセル」になりかねない。これまでの授業方法のアクティブ・ラーニングの押しつけ、資質・能力論に基づく表現力の強調などとあいまって、いっそう教員と子どもの負担は増大することは明らかである。

 

(3)授業を誘導?する教科書の増大

  現行指導要領での最初の4年前の検定でも、「板書例や授業の進め方などのガイドラインを掲載する教科書が目立っていた。子どのもの学び方や論議する手順、考える視点などを決まった形で誘導することによって、果たして本当の意味での『主体的・対話的で深い学び』となるのだろうか」(「事務局長談話」)と指摘したが、「より洗練された。各教科の学習の進め方をステップに分けて説明したページを設けた教科書も多く見られる」(「教育新聞」)。その一例として、光村図書の「国語」の2年生以上では、「国語のまなびをみわたそう」のコーナーを設け、学び方を解説し、本文と紙質や幅を変え、学習の中で何度も見返しができるようにしていることが紹介されている。

親切のようだが、授業は教員の専門性を発揮できない、教科書にそっただけのものになる恐れもある。それは子どもの学習権の保障にも関連する問題でもある。

 

2.あらたな「政府見解」による教科書記述の変更が継承された

(1)「政府見解」による教科書用語・記述の削除修正

   2021年、新たな教科書攻撃が開始され、日本維新の会の質問主意書に始まり、その内容を受け入れた菅内閣

の政府答弁書(政府見解)に基づいて、教科書会社への同年の「訂正申請」や文科省自身の昨年の検定で、中学校歴史教科書・高校の地歴・公民教科書から、「従軍慰安婦」、半島からの朝鮮人労働者の「強制連行」、「連行」の用語と、関連する記述の削除・修正が行われたことは記憶に新しいところである。

その際根拠とされたのは、2014年の「検定基準改定」の1項目「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解に基づいた記述がされていること」である。 (強調は引用者、以下同じ)

(2)社会科教科書での自主的修正

小学校社会科教科書は、東京書籍(「東書」)、教育出版(「教出」)、日本文教出版(「日文」)の3社から発行されている。うち2社では記述の後退がおきている。

1) 「東書」6年のコラム「戦争と朝鮮の人々」の記述変更について

① コラム本文の「多数の朝鮮人や中国人が強制的に連れてこられて」が今回「強制的に動員され」に変えた。

同社の高校教科書と同様、連行とは書かず動員に統一したものである。

② また、コラムには兵士の写真が大きく取り上げられ、「兵士となった朝鮮の若者たち」とのキャプションがついていた。それが今回、「志願して」が加わり「志願して兵士となった朝鮮の若者たち」となり、コラムの文章も「男性は日本軍兵士として徴兵され」が「男性は日本軍に加わるようになり、のちに徴兵制がとられる」となった。

キャプションとコラム本文を先のように変更すれば、朝鮮の若者たちが自主的に、望んで兵士となったように誤解される。

これまでの日韓の研究によれば、「志願」は、実際はさまざまな方法で無理矢理行われ、約1万8千人に達した。しかし、それでもたりず、1944年徴兵制に踏み切り、約23万人が日本軍兵士となった。

東京書籍のコラムは、社会科の他の2社と比べて、植民地支配に関連して創氏改名、神社参拝の強制、若い女性を工場で働かせた、など比較的丁寧に記述していた。また高校の「歴史総合」では「慰安婦として従軍」の用語書き替えに最後まで応じなかったが、今回検定の指摘がないのに、先のように変更している。

 

2)「教出」のコラムの記述変更

教育出版は「日本軍の兵士として徴兵され、戦場に送られた」から「徴兵され」を除いた。残り一社「日文」の「朝鮮や台湾では徴兵が行われ、日本の軍人として戦場に送られました」に変更はない。

 

これらの記述変更は、歴史修正主義にもとづく教科書記述変更の強制が依然としてつづいていることを示している。

 

3.愛国心教育が一層前面に打ち出させた

(1)道徳の場合

 来年で導入から7年目を迎える道徳の教科化は、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」の愛国心教育が一層強化されている。この項目での検定意見は13件あり、前回の2件、その前の導入時の3件と比べ大幅に増加している。

 しかも具体的な箇所を示さず、「学習指導要領に照らして扱いが不適切」との指摘で、記述の変更・修正をせまるものであり、教科書会社に文科省の望む変更の「忖度」を求めるものである。結局、無理やり「国」や「日本」を入れさせることになり、不自然な内容となる場合も生まれている。「朝日」などによれば以下の事例がある。

① 光村図書の6年生で、秋田の伝統工芸品の曲げわっぱの話を聞いて小学生がその魅力に気づく教材の末尾にある「曲げわっぱの他にも、昔から日本各地で大切にされているものがあるよ調べてみてもいいね」と言う問いかけを「君が思う日本のよさはどんなものかな。それらのよさを、どうやってよりよいにしていきたいかな」と修正して合格。具体的な工芸品などの話から、抽象的な話になった。

② 教育出版2年の「わたしの町のあんこやさん」で「いつも買いに来てくれる地域の人のためにがんばろうと思うんだ」というせりふの後に、「これからも日本のあじをつたえていきたいね」と追記、さらにこの教材を「ふかめよう」の「あなたのすんでいる町に、ずっとつづいているお店や、これからもつづいてほしいお店はありますか」とあった。これに、「むかしからある日本の食べもので、すきなものはありますか。また、」をつけくわえるなどに修正している。教材のタイトルも「ちいきのよさに気がつく」を「国やちいきのよさに気がつく」と修正している。

そもそも小学校1.2年生の道徳の内容は「郷土の文化や生活に親しみ、愛着をもつ」だったはずである。国も5年生の社会科で扱う内容ではないか。

このように低学年から、「国」や「日本」をことさら、付け加えさせるのは、この間の「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議報告書」の内容や政府の安保関連3文書につながる「愛国心教育」がより強く前面に出てきたものではないか。 

 

(2)領土問題…政府の宣伝文書化

①この問題では、指導要領で、第5学年で「『領土の範囲』については,竹島や北方領土,尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること」とあるだけだが、学習指導要領解説(以下、(「解説」)では、この内容の取り扱いとして以下のようなフレーズがある。

「大韓民国やロシア連邦によって不法に占拠」「我が国は竹島について大韓民国に繰り返し抗議を行っている」「北方領土についてロシア連邦にその返還をもとめていること」「尖閣諸島に着いては、…領土問題は存在しないこと」これらに「触れること」

② 前回の検定で「日本の領土」ではなく、「固有」を入れ「日本固有の領土」とすることが検定で徹底された。今回は、教育内容の対象外の社会6年生でも、検定で修正された。さらに、「北方領土」は教科書では日本領に入れ、択捉島などの図版が抜けているとの検定意見がついている。(「産経」)

③ 同じように、前回の検定での指摘をうけ、おしなべて竹島、「北方領土」は、韓国やロシアによる、「不法占拠」と書いている。それは、「固有の領土」に対するもので、「実効支配」ではなく、「不法占拠」と書いている。尖閣諸島については、「領土問題は存在しない」と書いている。これらの内容は、先に見たように、法的拘束力があるとする指導要領を越えて、文科省が「指導助言する」とする「解説」に記載されているに過ぎない。これは、「学習指導要領解説をより踏まえて教科書記述に適切に反映していくこと」(2017年5月23日「教科書の改善について(報告)」に沿ったものである。

④ 2014年に検定基準が改定され、「政府見解条項」などが入ったのと時を同じくして、小中学校社会と高校地歴・公民の「解説」だけが改訂された。中学地理についてみると領土問題で、改訂前では「我が国と韓国の間に竹島をめぐって主張に相違があることなどにも触れ、」となっていたが、削除され、「(竹島は)韓国によって不法に占拠され」などとなった。

⑤ こうして、領土問題は国民の民族主義的感情(ナショナリズム)を煽る手段となり、教科書は、政府の宣伝文書となった。なお、教出社会5年で「国にとって領土はとても大事だけれど、となりの国々とはなかよくしていきたいね」と述べる子どものイラストが該当記述の側面にあったのが残った。しかし、日文社会5年の教科書は、同じようなこどものイラストを掲載しているが、前回は「北方領土や竹島、尖閣諸島も日本固有の領土なんだね」だったが、「北方領土は日本固有の領土だから、早く返してもらいたいな」と言わせている。

⑥ 子どもたちが、歴史的な経緯を含め、冷静で事実に基づく合理的な判断が出来るようにすることが教育の役割であり、中国、韓国などの青少年と接したとき、自分の言葉で語ることが大事である。政府の言うところの「北方領土」は、複雑な歴史的背景があり、竹島の問題は、日本の植民地支配の問題が絡んでおり、日本政府が植民地支配についての誤りをきちんと認め、話し合いのテーブルに双方が着くことが大事である。

尖閣諸島の問題では、2014年11月7日に中国の楊潔篪国務委員と日本の谷内正太郎国家安全保障局長による合意文書の第3項目には「双方は,尖閣諸島等東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識し,対話と協議を通じて,情勢の悪化を防ぐ…」(外務省HP)などとある。「領土問題は存在しない」では、それこそ「生徒が誤解するおそれ」(検定用語)はないのか。軍事力による対決・解決ではなく、道理ある説明を行う、平和的な外交努力が求められている。

 

 

4.三位一体で政府の教育政策を貫徹させる教科書

(1)教科書の全体状況をどうみるか 

① 教科書は、「教育課程の基準を大綱的に定め(た)」指導要領に基づいて、「解説」も参考にしながら、教科書会社が作成し、文科省の検定を経て発行される。教科書会社ごとのバラエティーに富んだものを教員が「児童や地域の現状や課題を捉え」専門的力量を発揮し、教材などを使い授業を行うもののはずである。しかし、現実はどうなっているのか。 ※「  」は小学校学習指導要領前文の記載

文科省著作物の「解説」が実際の教科書作成に多大の影響を与え。先に見たように教科書検定でも、「解説」に沿った「指摘」が多くなっている。

② 最近の社会科などの文科省の用語・記述に対する政府見解に基づく「検定基準」を使った介入と相まって、教科書の記述も文科省・指導要領の意図に忠実な内容になってきている。授業を指導要領に沿って誘導している。こうして、 学習指導要領、『解説』、教科書検定の三位一体で文科省の教育政策が教科書を通じて、子どもたちに大きな影響をあたえようとしている。

 

(2)学校現場などの意見などに応えない学習指導要領とその「混乱」

①高校国語などでの「混乱」

  指導要領では、論理的文章(評論)と実用的文章(説明文、法令)などを学ばせることを重視し、高校の必修で「現代の国語」、選択で「論理国語」を設け、小説、詩歌、文学、評論は、必修「言語文化」、選択「文学国語」に切り分けた。しかし、現場からは、こうした切り分けは「授業編成」がやりにくいとの声が上がり、掲載できないはずの小説を載せた第一学習社『現代の国語』が2021年に採択数でトップとなった。

昨年の検定でも、読売新聞は社説で「国語の科目再編は無理がある」と指摘している。文学関係学会の声明や学術会議の提言などが様々危惧を表明してきたことが現実のものになっている。

②今回の保健でも

 保健体育では、LGBTQなど性の多様性みついて全6社がとりあげ、記述も大幅に増加している。しかし、指導要領は小学校3.4年では「思春期には異性への関心が芽生え」とあり、性の多様性には触れていない。この問題では、この学習指導要領作成時に、LGBTQの当事者が「性の多様性を盛り込むように」署名活動を展開したが、文科省は「保護者や国民の理解など考慮すると難しい」(2017年)などと説明していた。(「毎日」)

③英語での硬直した対応

「山の名前を使うときは、名前の前にMt.をつけます。富士山は、Mt.Fuji」が、「学習指導要領が示す内容に照らして、扱いが不適切」との検定意見がついた。文科省は「意味のある文脈で繰り返し触れることが求められる」「(Mt.をつけるなどという)知識を教えることは学習指導要領が想定してない指導になる恐れがある」([朝日])。産経新聞は、「英語を実際に使ってみることで文法や発音を体感的に身につける学習だ。知識として文法を教えるのは中学生むけの課題となる」としている。

学習指導要領やその「解説」のあり方を含めた、その見直しが求められる。

5.終わりに

  検定結果を含む教科書内容の公開が極めて秘密主義的で、公開の方法が不備で、かつ時期も遅いため、まだ全面的な検討を行う条件が整わず、現在判明している範囲で、全般的な問題点について指摘せざるを得なかった。QRコードなども含めて検定結果教科書の早期公開を含めつつ、その公開のありかたについて、改善をもとめたい。

なお、教科内容がわかりしだいしかるべき時期にあらためて見解表明や資料集発行を予定している。

以上

 

 

 




中国、韓国、日本の市民、学者、研究者、教育、出版関係の皆さん

一昨年、日本での新しい歴史教科書をつくる会(以下、「つくる会」)系の「子どもに渡せない」中学校歴史・公民教科書は、四半世紀にわたる皆さんの取り組みで、採択数を激減させました。

しかし、歴史修正主義の流れは、新たな策動を開始しています。昨年4月日本維新の会馬場伸幸衆議院議員の質問主意書に菅内閣は、「従軍慰安婦」は、「慰安婦」に、「強制連行」は、「徴用」などとすることが「適切」との答弁書(政府見解)をだしました。

2014年に改訂された「検定基準」では、「政府見解」などによる教科書記述が求められており、昨年夏には、使用中の中学校社会科や高校地歴・公民の教科書記述を教科書会社は一定の抵抗をしつつも変えざるを得ませんでした。今春には文科省自らの検定で、記述の変更を求めるに至りました。

学問研究の成果やこれまでの答弁などを無視して「政府見解」で、教科書の記述を変えるのは、日本の戦前の国定教科書の復活であり、教育と学問に対する介入に他なりません。

これら一連の行為は、政府自ら発した河野談話の空洞化であり、国際公約の「近隣諸国条項」を有名無実化するものです。東アジアの和解と平和の構築にとって、許しがたいものであり、中韓日の皆さんで声をあげようではありませんか。個人、団体での声明への賛同を呼びかけます。

2022年5月24日

呼びかけ団体 日本:子どもと教科書全国ネット21

       韓国:アジアの平和と歴史教育連帯

 

        

連 絡 先

子どもと教科書全国ネット21 事務局長 鈴 木 敏 夫

102-0072 東京都千代田区飯田橋2-8-9 第二望月ビル2F

電話:03-3265-7606/E-mailukyokasho21@a.email.ne.jp

 

教科書記述に対する日本政府の政治介入を憂慮する(声明)

 

日本政府は、2021年の高校地理歴史科・公民科の必修科目に続き、2022年には同選択

科目の教科書検定結果の概要を公表しました。これらの教科書は、2022年から高校に新

たに適用される学習指導要領に準拠したものです。

これらの教科書のあちこちから、よりよい教科書をつくるために執筆者や編集者が注い

だ努力を読み取ることができます。とりわけいくつかの教科書では、日本の侵略戦争と植

民地支配について批判的に記述し、過去を反省する姿も示されています。このような努力

は、平和と人権を重視する教科書をつくろうとするすべての人々にとって、よい参考にな

るでしょう。しかし一方で、これらの教科書には日本政府が積極的に介入した痕跡が随所

に見られてもおり、執筆者や編集者の努力に水を差しています。

この背景には、日本政府が行った2014年1月の教科用図書検定基準と同年4月の教科用

図書検定審査要項の改定があります。この2回の改定で最も重要な点は、日本政府の見解

を教科書に反映させることでした。これに加えて、日本政府は2021年に閣議決定を通じ

て「従軍慰安婦」「強制連行」「連行」などの用語を使用できないようにしました。今回

の教科書検定の過程で、政府はこれらの条項を根拠に、教科書の該当内容の修正を教科書

発行者に事実上強要しました。その結果、ほとんどの教科書発行者が政府の見解に従って

内容を修正せざるをえませんでした。

1993年、日本政府は自らの調査結果に基づいて河野談話を発表し、日本軍と官憲が日本

軍「慰安婦」の動員や慰安所の管理に関与したという事実を認めています。それ以降、日

本の歴代首相は河野談話を継承すると述べてきました。

ところが安倍政権は、河野談話を継承するとしながらも、日本軍「慰安婦」の動員に軍

と官憲が直接関与した強制連行はなかったと述べ、問題の本質を避けました。さらに今回

菅政権は、教科書から「従軍慰安婦」「強制連行」「連行」などの用語を削除させ、日本

軍の関与を否定するに至っています。これは従前の政府見解を自ら否定するものにほかな

らず、日本や世界の学界による研究成果とも合致しないものです。朝鮮人労働者の「強制

連行」「連行」を否定することも同様です。日本政府の主張は、植民地の状態そのものが

強制的な状況であることを考慮しない帝国主義的な立場をいまだに放棄していないことを

示すものです。このような介入は、1982年に日本政府自らが、教科書記述において「近

隣諸国」の立場を考慮すると表明した国際的な約束を破棄するものでもあります。

日本の教科書における歴史記述、ひいては世界各国の教科書に、侵略戦争と植民地支配

に対する反省が込められ、人権の大切さに気づかせる内容が盛り込まれることを願う私た

ち日中韓3国の市民は、教科書記述に対する日本政府の権力的な介入に深い憂慮を表明せ

ざるをえません。また、そのような介入が、東アジアの平和と世界平和に深刻な脅威にな

っていると考えます。私たちはこのような憂慮を込めて、日本政府に対し、以下のとおり

要求します。

1. 教科書に対する政治介入を直ちに中止せよ

2. 「従軍慰安婦」「強制連行」「連行」などの用語使用禁止を撤回せよ

3. 被害者の人権を大切にし、アジアと世界の平和に向けた歴史教育を支援せよ

 

4. 政府間の歴史対話を再開するとともに、市民社会の歴史対話を積極的に支援せよ

2022年 月  日.

 

アジアの平和に向けた歴史教育を望む日中韓市民一同

      呼びかけ団体 日本:子どもと教科書全国ネット21

             韓国:アジアの平和と歴史教育連帯

      賛同(個人、団体)

 

参考 2014年 教科用図書検定基準の改定未確定な時事的事象について断定的に記述していたり、特定の事柄を強調            し過ぎていたり、一面的な見解を十分な配慮なく取り上げていたりするところはないこと。(下線部を新設)

 

近現代の歴史的事象のうち、通説的な見解がない数字などの事項について記述する場合には、通説的な見解がないことが明示されているとともに、児童又は生徒が誤解するおそれのある表現がないこと。(新設)

 

閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること。(新設)

 

 

googleフォームからも賛同署名できます。

個人版 と団体版 選択できます

 

 https://forms.gle/eWuPtfV5BLAaGqr66

 

 

      


【談話】

                                             高等学校教科書(主として2.3年生用)などの検定結果について

                                                                                                                                                                 2022年4月11日

                                                                                                              子どもと教科書全国ネット21 事務局長 鈴 木 敏 夫 

                                                                                                  〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-8-9 第二望月ビル2F

                                                                                            電話:03-3265-7606/E-mail:ukyokasho21@a.email.ne.jp

  高等学校は、この4月から新学習指導要領(以下、新指導要領)による教育課程が実施されている。文部科学省は来年度からの「主として中学年(2.3年生)用」教科書の検定結果を3月29 日に公表した。

  高等学校の共通科目においては、検定申請点数241点(冊)のうち、商業科関係の2点が申請を取り下げ、239点が合格した。昨年に検定が行われた、主として低学年(1.2年生)用が対象の地理総合、公共で1点ずつの検定申請があり合格した。また、中学校歴史教科書再々申請の令和書籍は、3度目の不合格となった。

子どもと教科書全国ネット21では、現在判明している範囲で、全般的な問題点について指摘しておく。なお、個別教科の問題については、引き続き検討していく予定である。

 

1 クーデター的な「政府見解」による教科書記述の変更を追認、強化した検定

(1)「訂正申請」の強要の追認

① 昨年4月27日の政府答弁書(政府見解)に基づいて、教科書会社への「訂正申請」の強要で、採択中の「歴史総合」、現在使用中の中学校歴史教科書・高校の地歴・公民教科書から、「従軍慰安婦」、「強制連行」、「連行」の用語と、関連する記述の削除・修正が行われた。

 

② 政府見解は「従軍慰安婦」、「いわゆる従軍慰安婦」ではなく、「慰安婦」という用語を用いるのが「適切」である。朝鮮半島からの人々を日本で働かせたことを「強制連行」「連行」とするのは適切でない。法令に基づく「徴用」などとするべき。としていた。

そして、2014年の「検定基準改訂」の1項目「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」を根拠に、次回の検定をまたずに、教科書会社からの「訂正申請」で、先の削除、変更がおこなわれた。「訂正申請」は、検定後の「誤記、誤植」を主とするものであり、それを「悪用」した、権力的な介入であった。 強調は引用者、以下同じ

 

③ 今回の検定は、それを容認し、さらに踏み込んだ判断を示している。

「政府の統一的な見解に基づいた記述がされていない」(以下、「政府見解条項」)との検定意見が過去最多の12点14カ所につき、記述の修正を求めた。その中に、「日本軍慰安婦制度」の用語がある。最高裁の判例に「いわゆる軍隊慰安婦」、「軍隊慰安婦」の使用例も挙げられていた(衆議院文部科学委員会 2021年5月26日)にもかかわらず、政府見解で否定されたものになかった多様な用語を認めなかった。また、「慰安婦」と「従軍」を組み合わせるのは、「不適切」とされながら、「歴史総合」で昨年夏には「訂正申請」を行わなかった教科書会社があった。しかし、今回の「日本史探究」においては、同様な箇所で、「従軍」を変え「慰安婦として戦地に送られ」としている。

 

(2)教科書会社の抵抗と工夫

① 東京書籍『政治・経済』で、「河野談話」(1993年、抜粋)として以下のような記述のコラムがあった。「本件(慰安婦問題)は、当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題である。政府は、この機会に、改めて、その出身地のいかんを問わず、いわゆる従軍慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒しがたい傷を負われたすべての方々に対し心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。…

われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。」

その注釈で「『慰安婦問題』に関する調査結果を受け、当時の河野洋平内閣官房長官が発表した談話。『慰安婦問題』への日本軍関与を認め、現在に至るまで日本政府の公式見解となっている。」

この注釈に「政府見解条項」の検定意見が付き、「『慰安婦問題』への日本軍関与を認めた談話で、日本政府の公式見解となっている。」と修正し、さらに「2021年に『従軍慰安婦』ではなく『慰安婦』の用語を用いることが適切との閣議決定が行われた」を付け加え、「河野談話」(1993年、抜粋)のあとに「『慰安婦問題』に関する調査結果を受け、当時の河野洋平官房長官が発表した談話。」を入れて、検定合格した。

 

②第一学習社『高等学校日本史探究』の「多数の朝鮮人を強制連行した。」の下線部に「政府見解条項」の検定意見がついた。これに対して、「強制連行」の用語を残し、側注で「2021年4月、日本政府は、戦時中に朝鮮半島から労働者がきた経緯はさまざまであり『強制連行』とするのは不適切とする閣議決定をしたが、実質的に強制連行にあたる事例も多かったとする研究もある。」とし、検定合格した。同社の『高等学校 歴史総合』も同様な対応をしていた。

 

③ 昨年夏の検定申請にみられる文科省の圧力の中で、政府見解を書き、それに批判的な記述を載せることを可能にしたのは、文科省が「政府の見解に触れた上で、それとは異なる見解を記すことまで否定しているものではありません」(衆議院文教科学委員会 2021年6月9日)と答弁せざるを得なかったからである。これは、2014年の「教科用図書検定基準改定」の際、検定審議会委員から、政権交代で政府見解が変わり、教科書記述が影響を受けることに疑問が呈され、上記のように答えていたことを再確認させたからである。

 

④ 中学校社会科教科書から、「強制連行」が一掃され、「慰安婦」記述は7社中1社になったのに比べれば、不十分ではあるが、側注に「戦地に設置された日本軍向け『慰安施設』には、日本・朝鮮・中国などから女性が集められ、『慰安婦』として働かされた。強制されたり、だまされて連行されたりした例もある」(山川出版『詳説 日本史』)と記述するなど「慰安婦」の用語使用も含め様々な記述がある。また、「強制連行労働者」を「強制的に動員され過酷な労働を強いられた者」とするのもあり、授業の手がかりすることが可能である。

 

その後も内容的に否定されることがなかった家永教科書裁判の第一審杉本判決では、日本国憲法における学問の自由の保障に関し「学問の研究は常に新しいものを生み出そうとするいとなみであって、歴史の発展に寄与するところが大きかった反面、それだけにときの為政者による迫害を強く受けてきたことにかんがみ、とくにこれを制度的に保障したものであると考えられる」と述べている。歴史研究の成果や最高裁の判例、これまでの政府答弁にも反する「答弁書」(政府見解)による教科書記述の書き換え強要は、一昨年の日本学術会議会員任命拒否などと通底する学問の自由や言論、出版の自由に反し、教育に対する不当な支配である。

「教科書を政府見解に従わせるのは、事実上の検閲」「戦前の国定教科書の復活と言わざるを得ない」(「琉球新報」社説)との声もあり、即刻このようなことは止めるべきである。

 

2.目立つ教育内容への国家統制の強化

(1)前回を大きく上回る検定意見

合格した239点のうち専門教科を除く189点の検定意見の総数は6,267点で、科目構成が異なるが、1点あたりの平均検定意見数は37.0件で、旧指導要領に基づく16年度検定の26.9件を上回っている。

表記の誤りや不正確の指摘にとどまらず、「指導要領に照らして『不適切』」など教科書の内容に踏み込むものが日本史探究に数多くみられる。また、先に見たように、随所で2014年の「改訂検定基準」による教科内容に対する踏み込みが目立っている。

日本弁護士連合会は「教科書検定基準及び教科用図書検定審査要項の改定並びに教科書採択に対する意見書」(2014年12月19日)を出している。意見書は「国による過度の教育介入として憲法26条に違反し子どもの学習権等を侵害するおそれがあるといわざるを得ず,これら(注:2014年「改訂検定基準、審査要綱)の撤回を求めるとともに,教科書採択においては,子どもの学習権の保障のために,教師及び学校の意思を十分に尊重することを求める」と、結んでいる。

今回も、2020年2月17日 の日本弁護士連合会会長声明において、「時々の政権が新たな見解を示すことで教科書の記述が変更させられるという事態は,国家(政府)による教科書内容統制と評価されるべきもの」であって「憲法の趣旨から到底許されるものではない」と厳しく批判し、教科書変更の「根拠となっている改定教科書検定基準の撤回を,改めて求める」としている。

いわゆる先進国に例を見ない、政府の都合の悪いことは「書かせない」、政府見解は「書かせる」、2014年改訂検定基準を含め、教科書検定制度を見直すべき時にきている。

 

(2)領土問題

この問題では、新指導要領「地理探究」は、政府見解そのまま、「竹島や北方領土が我が国の固有の領土」、尖閣諸島は「固有の領土」であり、「領土問題は存在しない」と言いきり、指導要領解説では「竹島」や「北方領土」は、それぞれ韓国とロシア連邦に「不法占拠」されている,としている。北方領土は、構成する4島の名称と帰属した条約名まで書かせている。地理歴史科、公民科の各科目の新指導要領と同解説も同様に記述しているため、地理歴史科・公民科の各科目の教科書ともかなりスペースを割いて、先の内容をほとんど記載しているが、韓国、中国、ロシアの主張について、解説しているものは、見当たらない。

これで、「多面的、多角的考察や深い理解」(新指導要領「地理探究」など)ができるのだろうか。

 

(3)南京事件

実教出版『精選 日本史探究』の「南京事件」について、「犠牲者数は約20万や10数万、それ以下など諸説あるが、時期・地域の範囲…などの論点がある。」に、2014年の「改訂検定基準」の「通説的な見解がないことが明示されていない」との検定意見がついて「…諸説あって確定していない。犠牲者数はじめ、時期・地域の範囲…などの論点がある。」と修正された。

昨年の東京書籍「詳解 歴史総合」で「(注)捕虜や、女性をふくむ一般住民(非戦闘員)に対して、暴行、略奪、集団的な虐殺が行われた。殺害の人数について、日本では数万~十数万以上など諸説があり、中国政府は30万人以上を主張している。この事件は、当時、日本国民には知らされなかった。」に検定意見はついていなかった。

南京虐殺事件は、この間の検定を反映して、総じて南京事件となっている。東京書籍『世界史探究』の日本軍の「南京入城」写真の説明に「南京占領の際におこした捕虜や市民の殺害は、『南京虐殺事件』ともよばれ」とあるのが目立つ程度である。

 

3.国語を「論理」と「文学」に分けた「新学習指導要領」の破綻

毎日新聞「論理・文学 切り分け『困難』」の見出しが目立っている。新指導要領では、論理的文章(評論)と実用的文章(説明文、法令)などを学ばせることを重視し、必修で「現代の国語」、選択で「論理国語」を設けた。そして、小説、詩歌、文学、評論は、必修「言語文化」、選択「文学国語」に切り分けた。

しかし、現場からは、こうした切り分けは「授業編成」がやりにくいとの声が上がり、掲載できないはずの小説を載せた第一学習社『現代の国語』が結果的に採択数でトップとなった。

読売新聞は社説で「国語の科目再編は無理がある」と指摘している。原則として文学作品を扱わないとされた「論理国語」で、全13点の教科書のうち2点で夏目漱石の「こころ」等の小説を「関連資料」として合格させる検定結果となった。一方、「文学国語」は、合格した11点すべてが評論文を盛り込んで、文学に関連する教材として、検定を通過している。このことを紹介して、「論理」と「国語」を分離することの無理をのべ、先に見たように、昨年の「現代の国語」同様、教員の間で評論と文学の両方をともに学ばせたいとの意向が強いことを指摘している。また、文学作品に触れることが論理的思考の育成にも重要だと指摘している。

2018年実施のPISA(国際学習到達度調査)で、日本の15歳(高校1年生)の読解力が2015年調査の8位から15位に低下し、07年の「ピザ(PISA)ショック」の再来とさわがれた。こうした中で、PISAの出題内容に関して「いくつかの資料を見比べて情報の質を判断する」「テキストから情報を探し出す問題」などの得点が低かったところから、契約書などを読ませる「実用文」重視の「国語改革」が短絡的に提起された。それに沿った新指導要領の新科目構成を行ったところ、このような破綻を見せる結果となったのである。それはこれまで複数社から申請のあった選択科目「国語表現」の発行が1社に留まったことにも現れている。現場の意向、文学関係学会の声明や学術会議の提言に耳を傾けて、新指導要領の見直しと当面の「柔軟な」運用が求められる。

 

4.「探究」や「探究科目」は、 生徒の学びを深めることになるのか

新指導要領では、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ ラーニング)」の視点とその理念の具体化をめざし「探究学習」が導入された。その手法を使ったのが、7教科82点に及んでいる。地歴では、科目の再編成もおこなわれ、「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」となった。国語でも科目「古典探究」が創設され、新たに「理数科」が設けられ、科目「理数探究」「理数探究基礎」が置かれた。

新たな状況を踏まえて「18歳成人」や「コロナ禍」について、考えさせ、話合いをさせる企画もある。ただ、そうした時間を確保することができるのか。地歴科の3つの探究は、旧課程のB科目に相当し、教科書もほとんど同じ分量・内容になっているが、標準単位数は4から3単位に減単位されている。その理念と実際はどうなのか、検討が必要である。

また、担当する「教員の時間的、精神的な余裕」(朝日新聞社説)が必要であり、その為の教員増、持ち時間減、長時間労働を解消する、実効ある「働き方改革」も急がれる。

 

5.沖縄に関する記述の問題

「1951年4月28日のサンフランシスコ講和条約発効で沖縄が日本本土から切り離された『屈辱の日』から70年」だったが、この日に直接触れた「日本史探究」は1社のみで、沖縄の米軍統治下の「沖縄の苦悩」の説明不足と「沖縄タイムス」は、書いている。今年は、沖縄の本土復帰50年を迎える。この間と現在の沖縄の置かれている問題は、南西諸島への自衛隊の配備ととともに考えるべき問題である。

「琉球新報』によれば、「集団自決」(強制集団死)については、「日本史探究」の7冊すべて記述があり、「日本軍により…集団自決を強いられ」(実教出版『日本史探究』)などの記述はあるが、軍関与に触れない山川出版の2冊の教科書もあるとのことである。また「軍命」による「集団自決」の強制は、2006年度検定以後、沖縄県民をはじめとする強い抗議にもかかわらず記述できないままである。ただ今回、「文学国語」の第一学習社の2冊が大田昌秀元知事の著作についての解説「コラム」の中で「日本軍よって『集団死』も強制された」と記述し検定意見が付されなかったことを「沖縄タイムス」が報道した。文科省の地歴科関係への検定こそ改めるべきである。

                                              以上

 


【声明】

  日本維新の会による国会を通じた教育に対する政治的介入に抗議する

 

                                                                                                                                                                    2022年2月21日

                                                                                                                            子どもと教科書全国ネット21常任運営委員会

                                                                                                                                                                       事務局長 鈴木敏夫

                                                                                                     〒102-0072 東京都千代田区飯田橋2-8-9 第二望月ビル2F

                                                                                               電話:03-3265-7606/E-mail:ukyokasho21@a.email.ne.jp

「明治憲法 授業で歪曲か」との見出しの『産経新聞』(1月30日付け)をもとに、衆議院予算委員会(2月2日)で、日本維新の会(「維新の会」)山本剛正議員は、オンラインで1月末に開催された日本教職員組合の教育研究全国集会・社会科教育分科会での新潟の小学校教員によるリポートを取り上げ、攻撃しています。

山本議員は、記事の中で「リポートでは、「『五日市憲法の方が民主主義の考え方なのに、なぜ選ばなかったのか』という疑問が生じた」とする授業を受けた児童の様子を紹介。教員が一方的な解釈を示したことで、正しい歴史理解が図れなかった可能性が高い」としていることや、他のリポートでも「早いうちから意図的に子供たちに『護憲』を浸透させようと各地で授業を進めている構図」としていることを取り上げ、岸田文雄首相に次のような質問をしました。

 山本議員「総理はご自身の任期中に憲法改正の実現を目指しておられますが、このようなことをどう受けとめますか」「こういった間違った教育が、憲法を国民の手に取り戻す当たり前のことができないなどとの認識があるのか、この問題の真偽の調査と問題があれば、改善させるつもりがあるのか」。

末松信介文科大臣が、学習指導要領に基づき適正な指導が行われるよう新潟県教育委員会と連携して必要な対応をすると答え、岸田首相は、それを追認しました。

 憲法改正を推進する岸田首相を持ち上げる政治的意図のもとに、国会質問によって自主的な教育研究や学校現場の具体的な授業実践を取り上げ、「適正な指導」や「必要な対応」などを求めることは、教育内容に対する政治的介入であり、許されるものではありません。それは、政治権力により教育がゆがめられないよう求めた教育基本法第16条の「教育は、不当な支配に服することなく」との規定に抵触するものです。このように教師の教育上の自主的権限や専門性を侵害することは、憲法26条に保障された、子どもたちの教育への権利をも奪うものです。

 維新の会は、中学、高校の社会科系教科書攻撃の先頭に立ち、萩生田光一文科大臣(当時)とともに、2014年に改定された検定基準を強引に適用し、検定制度をも形骸化する「従軍慰安婦」や「強制連行」など教科書記述の変更を昨年教科書発行者に強要しました。しかし、その強引なやり方は、必ずしも貫徹しませんでした。その上で今また、このような教育への介入を行ったことに対して厳しく抗議するものです。

 政府・文科省が、憲法・教育基本法に違反する教育への不当な政治権力による介入に踏み込もうとしていることに強く抗議し、それを直ちに中止することを要求します。

 また、一部マスメディアが、特定の政治的立場と歴史認識にもとづき教育への不当な政治的介入を助長する報道を行うことに抗議するとともに、その是正を求めるものです。

                                                                                                                                                                                           以上                                                    

                                             

 


記者会見の報告

1018日、記者会見の後、文科省に192の賛同団体(その後200団体を越える)名簿とともに下記要求書をだしました。今回の問題ついて、私たちは検定制度すら形骸化する、重要な事態であること縷々説明し、文科大臣などに要求書を渡すように要請し、伝えること応対した教科書科課長補佐は約束しました。

こちらからはこの要求書の回答を聞く機会を設けたいことも述べました。なお記者会見には、自由法曹団平松本部事務局長、教育科学研究会の佐藤委員長、歴史教育者協議会の長屋事務局長も参加しました。

 この問題は、まだまだ続きます。引き続き取り組みをすすめます。

 

要求書

岸田文雄内閣総理大臣・末松信介文部科学大臣様

「従軍慰安婦」など歴史用語の教科書記述に対する政府の介入に抗議し、政府見解とそれに基づく訂正申請承認の撤回、2014年改定検定基準の廃止を求める。

 

Ⅰ.要求項目

1.「従軍慰安婦」「強制連行」などについての4月27日の答弁書(閣議決定)を撤回すること。

2.9月8日の訂正申請承認を撤回すること。また、更なる訂正申請の強要、文科大臣による訂正申請の勧告を行わないこと。

3.社会科並びに地理歴史および公民の教科書検定基準の2014年改定部分を直ちに廃止すること。

Ⅱ.理由

文部科学省は「従軍慰安婦」「いわゆる従軍慰安婦」、「強制連行」「強制労働」の記述について、教科書発行者5社から、現行版の中学校社会科、高校日本史・世界史(A・B)および「現代社会」「倫理」並びに来年度から使用される高校歴史総合の各教科書、529点について、「記述の削除や変更の訂正申請」を承認したと9月8日に明らかにした。今回の訂正申請は、「自主的」の形をとっているが、明らかに政府・文科省による強要である。

この問題は、3月の参議院文教科学委員会での自民党議員の質問に対して、萩生田文科大臣が、慰安婦に関する用語の政府の統一的見解がまとまれば、それに「基づいて適切に検定を行っていくこととなります」との答弁に始まり、「日本維新の会」幹事長馬場伸幸衆議院議員の「従軍慰安婦」、「強制連行」などに関する質問主意書と、それに対する閣議決定された菅内閣の以下の答弁書(政府見解、4月27日)を契機に本格的に展開された。

答弁書{概要}

①「いわゆる従軍慰安婦」との記述は「従軍」と「慰安婦」の組み合わせも問題で、今後は単に「慰安婦」が「適切」である。

②戦時における「朝鮮半島から日本への労働者の移入」は、「募集」「官斡旋」など様々な経緯があり、「強制連行」または「連行」ではなく「徴用」を用いることが「適切」である。

 

この後の国会質疑で政府は、「政府見解」に沿って、訂正申請を教科書会社に働きかけること、訂正申請を行わない場合には文科大臣による「訂正申請勧告」もありうると答弁した。文科省は、さらに関係する教科書を発行する15社の編集担当役員を対象に「臨時説明会」を開催し、訂正する場合は「6月末までに申請」「8月頃、訂正申請承認」などの日程も伝えた。

これは、政府見解で教科書記述を恣意的に変えさせたことにほかならず、「検定時」だけでなく、政府の時々の意向で教科書記述を変えさせることとなる。憲法の保障する学問の自由、言論・表現・出版の自由の度重なる蹂躙である。

これらの訂正の根拠とされるのは、菅前首相も答弁しているように、2014年改定の義務教育の社会科および高校の地理歴史・公民の教科書検定基準「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」である。日本弁護士連合会は、この検定基準は「国による過度の教育介入として憲法26条に違反し子どもの学習権等を侵害するおそれがあるといわざるを得ず,これら の撤回を求める」(20141219日付「教科書検定基準及び教科用図書検定審査要項の改定並びに教 科書採択に対する意見書」)としていた。

この規定に基づき、いままでも領土問題などで執拗に政府見解が書かされ、「改定」検定基準の他の規定で南京虐殺事件、関東大震災の被害者数などを学問研究の知見に基づいて記述することができなくなっている。日弁連の指摘した「おそれ」は現実のものとなっている。検定基準の2014年「改訂部分」は、廃止すべきである。

2021年10月18日

子どもと教科書全国ネット21

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                                 記者会見の報告

 

1018日、記者会見の後、文科省に192の賛同団体(その後200団体を越える)名簿とともに下記要求書をだしました。今回の問題ついて、私たちは検定制度すら形骸化する、重要な事態であること縷々説明し、文科大臣などに要求書を渡すように要請し、伝えること応対した教科書科課長補佐は約束しました。

こちらからはこの要求書の回答を聞く機会を設けたいことも述べました。なお記者会見には、自由法曹団平松本部事務局長、教育科学研究会の佐藤委員長、歴史教育者協議会の長屋事務局長も参加しました。

 この問題は、まだまだ続きます。引き続き取り組みをすすめます。

 

要求書

 

 

岸田文雄内閣総理大臣・末松信介文部科学大臣様

 

「従軍慰安婦」など歴史用語の教科書記述に対する政府の介入に抗議し、政府見解とそれに基づく訂正申請承認の撤回、2014年改定検定基準の廃止を求める。

 

 

Ⅰ.要求項目

1.「従軍慰安婦」「強制連行」などについての4月27日の答弁書(閣議決定)を撤回すること。

2.9月8日の訂正申請承認を撤回すること。また、更なる訂正申請の強要、文科大臣による訂正申請の勧告を行わないこと。

3.社会科並びに地理歴史および公民の教科書検定基準の2014年改定部分を直ちに廃止すること。

Ⅱ.理由

文部科学省は「従軍慰安婦」「いわゆる従軍慰安婦」、「強制連行」「強制労働」の記述について、教科書発行者5社から、現行版の中学校社会科、高校日本史・世界史(A・B)および「現代社会」「倫理」並びに来年度から使用される高校歴史総合の各教科書、529点について、「記述の削除や変更の訂正申請」を承認したと9月8日に明らかにした。今回の訂正申請は、「自主的」の形をとっているが、明らかに政府・文科省による強要である。

この問題は、3月の参議院文教科学委員会での自民党議員の質問に対して、萩生田文科大臣が、慰安婦に関する用語の政府の統一的見解がまとまれば、それに「基づいて適切に検定を行っていくこととなります」との答弁に始まり、「日本維新の会」幹事長馬場伸幸衆議院議員の「従軍慰安婦」、「強制連行」などに関する質問主意書と、それに対する閣議決定された菅内閣の以下の答弁書(政府見解、4月27日)を契機に本格的に展開された。

 

答弁書{概要}

①「いわゆる従軍慰安婦」との記述は「従軍」と「慰安婦」の組み合わせも問題で、今後は単に「慰安婦」が「適切」である。

②戦時における「朝鮮半島から日本への労働者の移入」は、「募集」「官斡旋」など様々な経緯があり、「強制連行」または「連行」ではなく「徴用」を用いることが「適切」である。

 

この後の国会質疑で政府は、「政府見解」に沿って、訂正申請を教科書会社に働きかけること、訂正申請を行わない場合には文科大臣による「訂正申請勧告」もありうると答弁した。文科省は、さらに関係する教科書を発行する15社の編集担当役員を対象に「臨時説明会」を開催し、訂正する場合は「6月末までに申請」「8月頃、訂正申請承認」などの日程も伝えた。

これは、政府見解で教科書記述を恣意的に変えさせたことにほかならず、「検定時」だけでなく、政府の時々の意向で教科書記述を変えさせることとなる。憲法の保障する学問の自由、言論・表現・出版の自由の度重なる蹂躙である。

これらの訂正の根拠とされるのは、菅前首相も答弁しているように、2014年改定の義務教育の社会科および高校の地理歴史・公民の教科書検定基準「閣議決定その他の方法により示された政府の統一的な見解又は最高裁判所の判例が存在する場合には、それらに基づいた記述がされていること」である。日本弁護士連合会は、この検定基準は「国による過度の教育介入として憲法26条に違反し子どもの学習権等を侵害するおそれがあるといわざるを得ず,これら の撤回を求める」(20141219日付「教科書検定基準及び教科用図書検定審査要項の改定並びに教 科書採択に対する意見書」)としていた。

この規定に基づき、いままでも領土問題などで執拗に政府見解が書かされ、「改定」検定基準の他の規定で南京虐殺事件、関東大震災の被害者数などを学問研究の知見に基づいて記述することができなくなっている。日弁連の指摘した「おそれ」は現実のものとなっている。検定基準の2014年「改訂部分」は、廃止すべきである。

2021年10月18日

子どもと教科書全国ネット21

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以下賛同団体